万葉集に咲く花|古名と和歌をオリジナル写真でたどる
『万葉集』には、野や庭に咲く花が、人の恋、記憶、別れ、季節の移ろいとともに残されています。ここでは、現在の植物との対応を確かめられる7種を、花写真と歌でたどります。
古い植物名は、現代と同じ呼び名でも別の植物を指す場合があります。断定できないものは無理に結び付けず、古名と現在名の違いを明記しています。
古名と現在の花をたどる
ユリ姫百合
夏の野の 繁みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものそ
姫百合として詠まれた花。歌に詠まれたのは姫百合です。掲載記事ではユリ類の写真とともに、野に咲く小さな百合へ寄せた恋心をたどります。
『万葉集』巻8・1500|大伴坂上郎女
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ツユクサ月草
月草に 衣は摺らむ 朝露に 濡れての後は うつろひぬとも
月草として詠まれた花。月草は現在の露草。青い花の色が褪せやすいことから、移ろう色や心を重ねる言葉になりました。
『万葉集』巻7・1351|作者未詳
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ナデシコ撫子
我がやどの なでしこの花 盛りなり 手折りて一目 見せむ児もがも
撫子として詠まれた花。庭に咲く撫子を、手折らず毎日見ていたいと詠んだ歌。小さな花を慈しむ視線が残ります。
『万葉集』巻8・1496|大伴家持
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ツツジ白つつじ
栲領巾の 鷺坂山の 白つつじ 我ににほはね 妹に示さむ
白つつじとして詠まれた花。白いつつじに、離れている人へ姿を見せたいという思いを託した歌です。
『万葉集』巻9・1694|柿本人麻呂歌集
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ヤマハギ秋萩
高円の 野辺の秋萩 な散りそね 君が形見に 見つつ思はむ
秋萩として詠まれた花。秋の野辺に咲く萩へ、もう会えない人の面影を重ねています。
『万葉集』巻2・233|笠金村歌集
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クズ葛花
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花/萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝顔の花
葛花として詠まれた花。山上憶良が数えた秋の七草の一つ。花だけでなく、野全体の広がりを思わせます。
『万葉集』巻8・1537-1538|山上憶良
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オミナエシ女郎花
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花/萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝顔の花
女郎花として詠まれた花。細かな黄色い花が集まる姿は、萩や葛とともに秋の野を形づくります。
『万葉集』巻8・1537-1538|山上憶良
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月草の青は、移ろう色
万葉の「月草」は現在のツユクサです。花の青で衣を摺り染めても色が褪せやすいことから、変わりやすい心や、消えそうな恋の比喩になりました。一日でしぼむ花を朝の光で撮ると、歌にある「移ろい」が写真にも重なります。
秋の七草は、一輪ではなく野の景色
山上憶良の二首は、萩、尾花、葛、撫子、女郎花、藤袴、朝顔を秋の野の花として数えました。ここでいう朝顔は、現在のアサガオではなく、一般にキキョウと考えられています。
山上憶良|『万葉集』巻8・1537-1538
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花
萩の花 尾花葛花 瞿麦の花 女郎花 また藤袴 朝顔の花
この写真館では、ヤマハギ、クズ、ナデシコ、オミナエシの写真と物語を掲載しています。
万葉の花を写真で見るときの三つの視点
咲く場所庭、野辺、山の道、水辺。花の周囲を少し入れると、歌の舞台が見えてきます。
色の変化月草の褪せる青、葛葉の色づきなど、花だけでなく時間による色の変化を見ます。
人との距離手折らずに見る撫子、面影を託す萩。人が花をどう見たかを構図の距離へ置き換えます。
よくある質問
Q
万葉集の朝顔は、現在のアサガオですか?
A
秋の七草に含まれる朝顔は、現在のアサガオではなく、キキョウとする解釈が一般的です。そのため、このページでは現在のアサガオ記事へ秋の七草として結び付けていません。
Q
ユリの記事写真は姫百合ですか?
A
万葉歌で詠まれた植物は姫百合ですが、記事には複数のユリ類の写真があります。歌の植物と掲載写真の範囲が同一とは限らないため、区別して案内しています。
Q
古い歌の表記が資料によって違うのはなぜですか?
A
底本や読み下し方によって漢字や仮名遣いが異なることがあります。意味を変える違いがある場合は一つに決めつけず、確認できる形を採用します。